マネーボール外交とは?-キューバ危機に学ぶケネディ大統領の手腕
アメリカのリーダー達は、世界の警察官たらんとする野望を捨てるべきなのでしょうか。
いくつもの泥沼化してきた戦争の教訓から軍事費を抑えることができれば、
戦争ではなく本土を守るために、つまりアメリカを永久未曾有のテロ攻撃から守るための
投資や、国内のインフラ再建、教育システムの整備、
軍務に従事した人のケアなどにもお金をつぎ込めるかもしれません。
アメリカがより安全で、豊かになるためのアメリカの外交政策には何が必要なのでしょうか。
イアン・ブレマーは、「マネーボール外交」という概念を使って説明する。
マネーボールとは、2003年に発売されたマイケル・ルイス著のベストセラー本のタイトルで、
貧乏球団オースランド・アスレチックスのゼネラル・マネージャーであるビリー・ビーンが
超合理的で厳格な手法を使って常勝フランチャイズを創り上げた実話が書かれています。
合理的に考えれば、武力行使という脅威もまた成功する外交の不可欠な要素なのだということもできます。
アメリカの国家安全保障を守るには、核兵器の拡散を防止し、アメリカ本土へ壊滅的な攻撃をする手段が
テロリストの手に渡らないようにするため、あらゆる手を尽くさないといけません。
キューバ危機におけるジョン・F・ケネディ大統領の手腕は、歴史的にも有名です。
1962年10月、ケネディ大統領は、カストロ政権下の社会主義国キューバに
わずか数分でミサイルがアメリカ本土に到達する至近距離に、
ソ連が設置した核ミサイル基地を発見するという事件が起こりました。
基地撤去を要求するとともに海上封鎖によるミサイル輸送阻止を宣言し、
米本土へのミサイル攻撃があれば、ソ連に全面報復すると警告しつつも、
ソ連のミサイルが持ち込まれたキューバに侵攻すべき
だと主張する軍事アドバイザーからの圧力を退けました。
アメリカがキューバに侵攻しないとの約束などと引き換えにソ連はミサイル撤去に同意しますが、
トルコの米軍基地をめぐる秘密裏の外交取引によって冷戦時代の最も危険な直接対決を平和裏で収束に導いていたのです。
マネーボー外交のガイドラインとしてアメリカの軍事、外交双方の最高責任者を務めたコリン・パウエルの
「パウエル・ドクトリン」では意思決定の諸原則として、次の8つを事前に考慮する必要があるとしています。
① 必要不可欠な国家安全保障上の利益が脅かされているか
② アメリカに明確かつ実現可能な目的があるか
③ リスクおよびコストが十分かつ率直に分析されているか
④ 非暴力的な手段がすべて尽くされたか
⑤ 泥沼から抜け出すために妥当な出口戦略があるか
⑥ アメリカの行動がもたらす結果について、十分に検討されているか
⑦ アメリカ国民がその行動を支持しているか
⑧ 広範囲にわたる真の国際的支持があるか
戦争に関してアメリカのリーダー達は、世界の警察官たらんとする
野望を捨てるべきなのか、いま一度考えてみる必要があるのかもしれません。
・参考文献
イアン・ブレマー『スーパーパワーGゼロ時代のアメリカの選択』日本経済新聞社(2016年)
堀本武功『現代アメリカ入門』明石書店(2004年)