国勢調査 -政治的代表や連邦予算配分の決定基盤

国勢調査 -政治的代表や連邦予算配分の決定基盤

census document form and ball point ink pen on American flag for 2020

人種・民族的多様性が特徴であるアメリカは、10年に1度の国政調査の推移から
人口動態(デモグラフィ)の変化を知ることができます。

アメリカ合衆国では、1790年以来、国政調査が実施されてきました。
国勢調査は、単なる人口調査ではなく、
政治的代表や連邦予算配分を決定する基盤を得るための事業です。

集計結果によって各州の連邦下院議員定数が決定されるとともに、
地方選挙区、教育委員会地区などを含めた行政区が再編成されます。

-結果に基づいて巨額の連邦予算が配分されるため、集計のあり方や
調査項目の内容は、地域の利益に密接に関わる極めて政治的な問題となります。

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◇ 2010年度の国勢調査

■ 2000年と比べて、データ収集方法に大きな変更 -「簡易調査」のみに

「詳細調査」は廃止され、下記の10項目を答えるだけの「簡易調査」のみとなりました。

- 世帯人数、住宅形態、氏名、性別、年齢、生年月日、エスニシティ、
人種、世帯員の関係、世帯員の現住所以外の居住など

*以前は、簡易調査票とともに詳細調査票を併用して学歴、所得、アメリカ合衆国市民権の有無など
社会的・経済的特性のサンプル調査が実施(2000年には17%の世帯を抽出)

■ 国勢調査への回答結果は、アメリカ社会の「実態」を知る手がかりであるとともに
人々の帰属意識やアイデンティティが反映される

2010年調査では(00年と同様に)まず「エスニシティ」調査として
「ヒスパニック/ラティーノ/スペイン系」か否かが問われます

そして、その後「人種」調査に自己申告の形で答える様式になっています。

【結果】ヒスパニックの割合の増加 と 加速するアメリカの非白人化

白人 63.7% / ヒスパニック 16.3% / 黒人 12.2% / アジア系 4.7%
複数の人種 1.9% / アメリカ先住民 0.7% / その他の人種 0.2% / ハワイ・太平洋諸島 0.2%

・ヒスパニック/ラティーノが米国人口に占める割合 16.3% → 前回に比べ 43.0%の増加率

参考:ヒスパニック/ラティーノ とは?

アメリカで最大のマイノリティ集団の「ヒスパニック/ラティーノ」とは、
自らあるいは祖先がラテンアメリカ諸国で生まれた、あるいはそう意識する人々のこと

*あくまで出生地による呼称のため
白人、黒人、アジア系、先住民などという人種の分類とは別建てヒスパニックの人口増加率が高い理由は、出生率の高さと入国数の多さにあります。

・1976年から2008年にかけてヒスパニックの有権者登録数が4.6倍( 250万人 → 1160万人:米国人全体で1.6倍 )

ヒスパニックによる教育委員会・地方政府の過半数支配や、
ヒスパニックの州知事・上院議員・市長の増加、
初のヒスパニック系最高裁判事ソニア・ソトマヨールの指名 など政治的に影響力をもつようになっています。

ヒスパニックが政治的に影響を持つとされる5つの要因

① アメリカ合衆国市民権取得希望者の急増

- 過去20年ほどの間に合法・非合法を問わず、移民全体に対して
社会サービスその他の法的保護を制限あるいは拒否する連邦・州レベルの
住民提案が矢継ぎ早に出されてきたが、このような動きに恐怖感を抱いた
移民側の反応のひとつといえる

一方で、1990年代にコロンビア、ドミニカ、コスタリカ、エクアドル、メキシコなど
一部のラテンアメリカ諸国で見られた自国民に対する二重国籍の法的容認措置にも後押しされている

② 他の米国人よりも年齢の中央値がはるかに若い

③ 団結力のある全米レベルのヒスパニック・ロビーが形成されたこと

④ 労働者階層をも取り込んで、ヒスパニック全体の向上を図る、
社会志向型のヒスパニック中産階級の台頭

-これは、1980年代に出現したヒスパニックのブルーカラー労働者と自らの
過去・将来とを結び付けて考える専門職・ビジネス職の階層に由来する

⑤ 第三勢力としてのヒスパニックの台頭

・共著『新時代アメリカ社会を知るための60章』明石書店(2013年)

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