移民の人種的プロファイリングは妥当?-アリゾナ州移民法判決

137月 - による user - 0 - コラム 移民
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アメリカでは、連邦政府が出入国管理を行い、州以下の政府が
入国した移民に対する直接的な対応を行っています。

近年のアメリカでは、移民対策をめぐって連邦政府と州以下の政府が
対立することも多く、移民対策に直接対峙する州政府が連邦政府よりも
移民に対して強硬な態度をとる傾向にあります。

移民政策といっても、例えば市政府に、移民の法的地位に関する情報を集めて
連邦政府に提供したり、情報を連邦機関に請求することを義務付けること、
また、不法移民であると信じるに足る相当の理由がある場合には、
令状なしに当該人物を逮捕する権限を与えることは違法ではないのでしょうか。

この問題について、メキシコと国境を接しているアリゾナ州で、州による移民政策が
連邦最高裁で違憲とされるというアリゾナ州移民法判決を下しました。

2010年4月23日にアリゾナ州議会上院は、厳格な非合法移民取締法を可決しました。

① 非合法移民ではないかという「合理的疑い」がある者に、連邦移民法に基づく
証明書(在留資格証など)の提示を求めることを警察官に義務付けること

② 証明不能である者については、身柄の拘束や連邦政府への引き渡しを
警察官に義務付けること

この2条項が議論の的となり、2012年6月25日、アリゾナ州法に関して
連邦最高裁判所で判決が出されました。
まず、「移民政策は連邦政府が決定する」という前提を確認し、
同州法が含む以下の3条項を違憲とし、差し止めました。

① 非合法移民の州内労働の禁止
② 外国人に対する身分証明書携行の義務付け
③ 非合法滞在の疑いがある移民を令状なしに逮捕できるとする規定

*③について
在留資格を確認する警察官の義務を定めた規定
(いわゆる「書類(在留資格証)を見せろ」条項)については、
連邦地方裁判所の差し止め規定を破棄しました。

□ 恩情措置 vs 厳罰措置 -オバマ大統領の政策

オバマ大統領は、包括的な移民法は成立させなかったものの、
移民政策に一定の恩情措置をとりました。

・「ドリーム法案」‥16歳以前に入国した非合法移民で犯罪歴がなく、
2年以上大学で学ぶか軍に入隊するという条件を満たした者は
永住権を申請できる
(→ 2010年12月 上院で否決 )

・大統領行政命令‥16歳までに入国し、5年以上米国に居住し、現在30歳未満で
(2012年8月) 米国の高校を卒業するか米軍か沿岸警備隊の勤務経験があるものに対し、
2年間だけ国外退去処分にする

オバマ大統領は移民政策に対して恩情措置を図ったものの、
包括的な移民法の成立が必要だとの見方がされています。
移民政策についてリベラル派と保守派の妥協点を見出すことが国内の課題となっています。

・参考文献

西山隆行『移民大国アメリカ』ちくま新書(2016年)
共著『新時代アメリカ社会を知るための60章』明石書店(2013年)

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